交通事故に遭った直後は、誰もがケガの治療に目を向けがちです。しかし、実際に多くの患者さんを見ていると「本当の勝負はケガが治ってから」だと強く感じます。むち打ち、腰痛、しびれ、可動域制限など痛みそのものよりも、“残ってしまう後遺障害” がその後の生活に大きく影響するからです。
理学療法士として交通事故後のリハビリに携わっていると、患者さん一人ひとりの状態や生活背景によって、必要なアプローチが大きく異なることを日々実感します。今回は、後遺障害リハビリの現場で私たちが実際に行っていること、そして患者さんが押さえておくべきポイントをお伝えしていきます。
1. 事故直後の“痛みの正体”は一人ひとり違う
後遺障害リハビリは、まず“痛みの種類”を正しく見極めるところから始まります。
- 筋肉の損傷
- 靭帯の伸長(むち打ちの典型)
- 神経の圧迫によるしびれ
- 関節のズレや可動域制限
- 姿勢の崩れによる二次的な痛み
例えば、同じ「首が痛い」という訴えであっても、原因が筋肉由来か神経由来かによってリハビリ方法はまったく違います。これを誤ると“効かないリハビリ”になるだけでなく、症状を悪化させることもあります。
理学療法士は、触診や可動域テストで細かく状態をチェックし、痛みの根本にアプローチします。
2. リハビリの基本は「正しく動かす」こと
交通事故のリハビリでよくある誤解は、
「痛いからできるだけ動かさないほうがいい」
というものです。
実は逆で、“痛くない範囲で適切に動かすこと” が回復を早めます。
長期間動かさないと、関節が硬くなり、筋肉が萎縮し、痛みが慢性化しやすくなるためです。私たちが指導するのは、無理のない範囲で行う可動域訓練や、事故後の状態に合わせたピンポイントの筋トレです。
特に大切なのは以下の3つ。
- 関節の正常な動きを取り戻す
- 弱った筋肉を適切に鍛える
- 痛みを避けつつ安全に動く「順番」を覚える
ただし、ネットの動画を見て自己流で行うのは危険です。事故後の身体はデリケートで、間違ったトレーニングは再発や悪化につながります。
3. “日常生活のクセ”が後遺障害を悪化させることも
リハビリは治療室の中だけで完結しません。
- 長時間のデスクワーク
- 片側だけで荷物を持つ習慣
- 歩き方のクセ
- 座り姿勢の歪み
こうした日常生活のクセが、後遺障害の症状を長引かせる大きな原因になることがあります。
現場では、患者さんの生活スタイルまで細かくヒアリングし、
- 座り方
- 立ち方
- 歩き方
- 寝る姿勢
などを一緒に見直します。
「リハビリで良くなる → 日常生活で崩れる」を繰り返さない仕組みをつくることが、後遺障害改善の鍵です。
4. 精神的ストレスが痛みに影響する
交通事故を経験した方の多くが抱えるのが“精神的ストレス”です。
- 不安
- 怒り
- 恐怖心
- 事故のフラッシュバック
これらはすべて身体の緊張や痛みの感受性に影響を与え、痛みを強く感じやすくします。
理学療法士の現場では、患者さんとの会話も治療の一部と考えています。
「痛みがいつ良くなるかわからない」という不安を和らげ、リハビリの見通しを丁寧に説明することが、精神的負担を軽減し、結果的に症状の回復を早めるのです。
5. 後遺障害と認定手続きの“現実”
現場でよくいただく相談が、
「この痛みは後遺障害に該当するのか?」
というもの。
理学療法士として医学的な見解を伝えることはできますが、認定の最終判断は医師と自賠責側が行います。
大切なのは、
- 症状を正確に伝える
- 医師と理学療法士の記録を揃える
- リハビリの経過を丁寧に残す
という3つ。
適切な手続きのためにも、医療者と連携をとりながら進めることが重要です。
6. 後遺障害リハビリのゴールは“痛みなく生活できること”
私たち理学療法士が大切にしているのは、治療ではなく「生活の回復」です。
- 仕事に復帰したい
- 子どもを抱っこしたい
- 趣味のスポーツに戻りたい
- 朝起きた時に痛みのない生活がしたい
これらの“あなたの目的”が、リハビリのゴールになります。
理学療法士の役割は、一人ひとりの生活背景を理解し、その人に合わせたオーダーメイドのプログラムで後遺障害を最小限にとどめることです。
事故後の不安や痛みは、決して“我慢すればそのうち良くなる”ものではありません。
適切なリハビリを行うことで、身体は必ず変わり、生活の質は取り戻せます。
まとめ
交通事故の後遺障害リハビリの現場では、単なる「ケガの治療」だけではなく、
痛みの根本原因の分析・正しい動作の獲得・日常生活の改善・心理面のサポート
を総合的に行います。
事故後の身体の悩みが続く方は、ぜひ専門の理学療法士に相談し、
“未来の生活を守るためのリハビリ” を始めてください。
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